戸建リノベーション事業 競合の筆頭 S不動産の特徴と対策とは

 今回は戸建リノベーション事業において、全国的に最も競合する企業であるS不動産を取り上げます。

・近況

 直近ではリフォーム事業全体の年商として1034億円と公表されています(前年比83%)。工事件数14110件ですので、平均単価は733万円ですが、これは大規模でない工事も含めている数字です。拠点数は121店舗ですので、1拠点8億円規模となります(推定商圏人口は約50万人)。リフォーム事業の社員数は2800人、新規売上の比率は9割となっています。※リフォーム産業新聞

 売上を落としているのは明らかに新型コロナウィルスの影響で、見学会の開催を自粛したり、コアターゲットだったシニア層が敬遠したことによる着工のズレがあったりしたことが要因と思われます。実際に、2020年秋以降の盛り返しは顕著です。今年の見学会開催数もハイペースで推移しており、11月後半から12月前半の1ヶ月間を見ても全国各地で合計490回に及びます。広島や岡山等エリアによってはエスコートハウスというかたちのOB客様宅見学会(工事完了し住み始めているお客様宅の見学会)を積極的に開催しており、顧客接点の拡大に寄与しています。今期はコロナ前の8000棟ペースで推移しているようです。

・マーケティングの概要

 全体像としては、一貫して、シニア層を対象に、継続的に開催する施工中及び完成見学会、もしくは相談会を通じて、定額制(追加工事なし)のリノベーションを訴求するというかたちです。シニア層を想定していることもあり、折り込みチラシを重視しています。全国で反響率が高いチラシが即時共有され、紙面の標準化を図っています。近年は中古購入希望の一次取得者の比率も上がってきており、ポータルサイトや自社WEBサイト経由の比率が年々高くなっています(月間訪問者数70万人~)。ローカルSEOは優位ではありませんが「費用」に関するキーワードは圧倒的な強さです。また、JAとコラボしての取り組みは全国各地で見られます。

・営業、組織体制

 営業担当者が一貫して施工管理まで行うことをPRしています。一般リフォームを除くと平均単価は1200~1300万円と聞いています。特に首都圏などで見られる狭小地(建ぺい率の問題など)のリノベーションニーズも典型的なパターンの一つです。独自の見積りシステムにより30分程度で見積書を作成します(「坪数×坪単価」+オプション)。採用面では現状、「資格者歓迎」という表記ですので(リノベーションの会社では「資格者必須」という会社も多い)、給与制度からもどちらかというと営業会社の色が濃い印象です。1人の担当者が耐震診断、打合せ、見積り、発注、管理まで行うので、良くも悪くも営業担当者次第と言えます。ここ数年はモラル面の向上を図るためのコンプライアンス研修も導入されているようです。

性能、施工面

 事業発足当時から耐震診断、耐震補強を標準としており、耐震による安心感を全面に押し出しています。営業担当者がHOUSE-DOCという診断システムを使いこなせるよう、研修システムが整備されています。現況の診断は各関連業者が同行し、診断報告書として提示します。診断結果により、リノベーション意欲を喚起できるため、積極的に診断を促します(基礎に対する意識は補修レベルで上部構造評点は国の基準レベルで1.5以上は少ないという声もあります)。数年前から、顧客ニーズに合わせるかたちで断熱のPRを意識しはじめていますが、営業現場ではまだ優先順位は低い印象です。ホームページの情報量からも伺えます。

※その後、2021年12月10日、「高断熱リフォームプラン」全国発売開始

・対策

 まずは理念をベースにした自社の強みを活かしながら、建て替えかリノベーションか客観的に診断したり、リノベーションの本質を見学会、勉強会を通じて徹底的に伝えることが必須です。先行企業に対しては差別化と領域をズラすことが基本で初回面談はもちろん、勉強会の内容もカギになります。

 主導権を取りながら、自社が用意するレールに乗ってもらい、継続的な顧客接点を持つこと、共感、ファン化するための営業フローを社内で統一することがポイントになります。先生ポジションに立ち、お客様に学びを重ねていただくことで成約につなげるイメージです。

 戸建リノベーション事業はティーチング営業が求められる領域ですが、S不動産と競合する際はなおさら「リノベーション=教育業」というスタンスが大切だと考えています。

この記事を書いた人

コダリノ