リノベーション事業ならではの営業の仕組みづくり

 今回のテーマは、リノベーションならではの営業の仕組みです。私はコンサルタントとして、中小工務店の経営者にお会いする機会が少なくないのですが、リノベーション事業の課題は何ですか」と聞くと多くの場合「人の問題(特に人材育成)」という返答が返ってきます。リノベーションの営業は属人的要素が強く、建築知識や経験が信頼の源泉となるため、そうおっしゃるのも当然のことだと思います。しかし、属人的な要素が強い事業だからこそ、会社として営業しやすい環境をつくること、急に伸ばすことは難しくても着実に成長できる仕組みをつくることが大切であると私は常々考えています。

・新築事業との違い

 まず1つ目は現況の診断です。新築とは大きく異なるステップです。特に築古戸建住宅の耐震性においては現地調査が不可欠です。外部の調査、図面と建物が合っているか、ヒビ割れ状況を確認、柱と壁、床の傾きも診断します。天井裏や、接合部、筋交い、劣化状況、雨漏りのチェック。さらに床下調査。支えている基礎のヒビ割れ、劣化状況、土台部分の白あり被害、含水率計で木の湿気の状況をチェックするといった内容です。特に「建て替えかリノベか迷っている」という相談に対して、住宅業界ではどちらか一辺倒のアプローチになりがちですが、予算と建物の現況から客観的に最適なアドバイスをすることが求められています。さらに「思い出が詰まった家を受け継ぎたい」というニーズなら、いかにその気持ちに寄り添えるかという姿勢が大切です。大規模なリノベーションになればなるほど、建築リテラシ-が信頼の源泉ですが、情緒面も押さえながら、診断フェースで良好な関係を築けるかどうかがその後の進展に大きく影響します。単なる診断作業ではなく、「診断営業」「絆をつくる接点」という存在意義があります。

水まわりリフォーム、外壁塗装事業との違い

 次に押さえるべきこととして、リノベーション事業は水まわりリフォームや外壁塗装と比べて、平均工事単価がはるかに高いこともあり、リードタイムが長くなり、その分、顧客接点が増えるという大きな違いがあります。だからこそ、各顧客接点を通じて、「施工品質が高そう」「依頼先として信頼できそう」「思い描くリノベーションを実現してくれそう」といった具合にランクアップするための営業フローを構築することがより一層、不可欠となります(いくつもの川を超えるために橋を渡すイメージに似ているため「ブリッジ営業」とも言います)。

・営業ステップのポイントは教育的要素

 各顧客接点の目的は、ずばりランクアップです。WEBコンテンツ、資料の内容、セミナーや見学会(施工中、完成)の運営は特に会社側の役割として、仕組み化しやすい要素です。これらの顧客接点でいかに性能向上のマインドセット、施工品質の信頼、会社の独自の強みに対する共感等、リノベーションの専門店(専門事業)として、会社にファンがつく仕組みを作れるかどうかがカギとなります。会社へのファン化が強化できればできるほど、その分、営業担当者の力量に左右する部分をカバーできると言えます。しかるべきステップを構築できれば本来、リノベーション事業は、水まわりリフォームのような価格勝負にはなりにくく、施工品質が判断基準になる領域である点も見逃せないポイントです。

・組織面のポイントは分業制

 水まわりリフォームや外壁塗装の営業は、営業活動、見積作成、契約、施工管理といった一連の業務をすべて1人でこなすことが一般的です。一方、難易度が高いリノベーション事業で同じことを求めても、できる人材は極端に限られます。分業制なら、営業担当者の業務量が軽減され、お客様の要望や課題の理解、会社の価値観の共有、モデルハウス(完成見学)の説明、概算提示、資金、スケジュール共有といったリノベ営業ならではのヒアリングとナビゲートといった役割に専念できます。

・事業部全員で事例を共有する施工研修とは

 とは言え、単なるOJT(オンザジョブトレーニング)だけでは足りないのが現状で、営業ロープレ(初回面談、クロージング)、さらにリノベーションの施工実績を徹底的に共有する施工研修が有効になります。端的に言うと、施工管理者(現場監督)が事業部全員に向けて、ビフォー、施工中、アフター画像を用いながら、どのような経緯でどのような判断をし、なぜそのような対応をしたかといったことを現場サイドの視点でプレゼンするという取り組みです。プレゼンを聴く立場にとってはこれが疑似場数となり、継続的に開催できれば、経験不足を少しずつでも補うことができる研修の場となります。「インテリア志向の社員にとって施工面の知識や用語の理解が進む貴重な機会だ」という声も多いです。

 リフォーム業界において特にリノベーション事業は属人的な要素が強い業界ではありますが、「リノベーションは簡単ではない領域だ」と思いながらも以上のような仕組みを継続的に磨きあげる会社と、100%マンパワーだけに依存したままの会社との差は、当初は微差でも1年2年と月日が経過するにつれて、着実に成長スピードの差が開いていきます。

 以上、今回の内容を通じて「社員が最大限にパフォーマンスを発揮できる仕組みを構築してみよう」「まずはできることから取り組んでみよう」という会社が1社でも増えることを願っています。

この記事を書いた人

コダリノ