リノベーションの活性化と5段階欲求からの視点

 ・断熱、耐震訴求の背景(あまりにも低い築古戸建の性能)

 近年、着実にリノベーションが認知されてきました。2005年以降のGoogleトレンドの推移を見ても、過去は圧倒的にマンションリノベーションが認知を高めてきましたが、2016年頃から戸建のリノベーションの検索ボリュームが急増してきました。それに比例するように構造上の課題、断熱性能の問題が浮上しました。

 戸建のリノベーションにおいて、断熱、耐震訴求を主軸にした講義をしますと、「お客様の暮らしが基本であるべきだ」「お客様の暮らしの変化こそリノベーションだ」という声をいただくこともあります。なぜか二項対立になりがちですが、両方とも大切なことは明らかです。リノベーションの正義として、断熱と耐震を押さえること、さらにマーケティング上、押さえることといった複眼的に見ていくことも大切だと考えています。数字もそこだけ切り取って「スペックが本質ではないはずだ」という声もあります。これも当然で、あくまでも裏付けであり、雰囲気マーケティングかファクトベースマーケティングか、どちらに比重を置くか、新築で起こっていることはその後リノベーションにも浸透してくるはずといった時代を読み取り、アウトプットを最適化するという視点も場面場面で必要になります。

・マズローの5段階欲求をリノベーション業界に応用

 さて、リノベーションの場合、既存の性能が低すぎるため、断熱、耐震をまず押さえるという考え方を推奨しています。私は大学では心理学科に在籍していましたが、マズローの5段階欲求という人間研究を追究した有名な理論があります。マズローの5段階欲求とは、下層の生理的欲求から、上に向かって欲求の段階があるという提言です。

 まず一番下層は「生きていくための基本的で本能的な欲求」です。そして2番目が「身の危険に関わる状況から、より安心、安全な環境で暮らしたい」という欲求です。つまり、人間の欲求では極めて下層に近い根源的な欲求である点がポイントです。さらに、3番目の社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求へと続きます。自己実現欲求は、「あるべき自分」「自分らしく生きる」といった欲求です。本来、前述の一番下層から始める4つの欲求を満たすという大前提があってこその欲求レベルだと考えられています。

 この理論からすれば、ヒートショック予防や健康を守る断熱、地震から家族を守る耐震性能を満たさず、リノベーションという言葉が独り歩きすることに警笛を鳴らす声が着実に増えているように思いますが全く同感です。ぜひ、特に戸建に関してはリノベーションの定義として、断熱、耐震を当然押さえて、その上で暮らしやデザインをという概念が普及することを願っています。

・全体構造の問題であり、活性化はハードルが高い中、必要な要素は?

 こうしたリノベーションの普及は、国や自治体の政策(補助金と税収の循環、新築とリノベの比重)、事業者側の共創と発信、エンドユーザーの住宅観など全体構造がからんだハードルの高さを認識した上でのグランドデザインが必要でしょう。リノベの定義、リノベらしさ、リノベの魅力、リノベの期待を含めた全体設計を策定し、人口減少化時代と超高齢化社会における地方創生の象徴になるような将来イメージに対して、私も微力ながら取り組んでいきたいと考えています。

この記事を書いた人

コダリノ